乳腺外科
乳腺外科
乳腺外科は、乳がんをはじめとする乳腺の様々な病気の診断と治療を行う診療科です。乳がんは、家庭でも社会でも大きな役割を担う40代から60代の女性がり患するがんの中で最も多く、現在は9人に1人がかかる時代となりました。最近では20代や30代の若年者がかかることもめずらしくなく、全体の罹患率も年々増加傾向にあります。現時点では予防することはできませんが、早期に発見して適切な治療を行えば治る可能性が高い病気です。そのため定期的な検診の継続と日頃のセルフチェック、そして気になる症状が現れたときはすぐに乳腺を専門とする診療科(乳腺科・乳腺外科)を受診することが重要です。
乳腺の病気には、乳がん以外にも乳腺炎、のう胞、線維腺腫、葉状腫瘍、乳管内乳頭腫といった様々な種類があります。「乳房や脇のしこり・ひきつれ」、「乳房・乳頭の左右差や変形」、「乳房の張りや痛み」、「乳頭からの赤褐色の分泌物」などの自覚症状がある方、乳がん検診や人間ドックなどで要精検、要経過観察と診断された方、そのほか乳房で気になることがある方はお気軽にご相談ください。
日常的に起こりやすい症状でも、詳細な検査を行うことで重大な病気の早期発見につながることもあります。心配な症状やお困りのことがあれば、一人で悩まず何でもお気軽にご相談ください。
乳がんとは、乳管(乳汁の通り道)や、その周りの小葉(乳汁を作る場所)と呼ばれるブドウの房状の構造の上皮細胞から発生するがんを指します。初期には基底膜に覆われた管内にとどまっていますが、進行するにつれて、基底膜を破ってその外に浸み出し、血管やリンパ管内に入ると、その流れに乗って転移します。進行の速さは、乳がん細胞の性質によってまちまちです。転移しやすい場所は、リンパ節、骨、肝臓、肺、脳などです。乳がんの主な症状は、乳房のしこりです。このほかに見た目でわかる異常所見としては、乳房のくぼみ、ひきつれ、赤み・ほてり、乳頭からの分泌物やただれ、左右の乳房のサイズの変化などがあります。日本人女性の場合、閉経前の45~49歳と、閉経後の60~64歳に発症のピークがあるという特徴がありますが、最近では20代や30代で罹患することもめずらしくありません。とくに女性ホルモンに長期間さらされている方(初潮が早く閉経が遅い、初めての妊娠・出産が遅い、出産回数や授乳経験が少ない、乳がんの家族歴がある、良性の乳腺疾患になったことがある)がかかりやすい傾向にあります。また、閉経後の肥満は明らかなリスク因子であることがわかっています。乳がんの診断には、視触診やマンモグラフィ、超音波などの画像検査を行ったあと、疑わしい病変の一部を採取(細胞診や組織生検)して、病理組織学的検査を行う必要があります。これにより確定診断を行い、がんの性質(サブタイプ)を調べ造影MRI検査やCT検査によりがんの広がり具合や転移の程度を確認し、乳がんの進行の程度を把握します。乳がんの治療は、その進行度や性質により決定します。初期治療は、基本的には外科的手術(全摘術、温存術、およびこれらと乳房再建術の組み合わせ)になります。術前に薬物療法を行う場合もあります。術後には、再発リスクを下げるために必要に応じて薬物療法(ホルモン療法や抗がん剤、分子標的薬の投与)や放射線治療を行います。一定期間の術後治療が終わると、定期的な経過観察を行うことになります。(ホルモン療法の場合は、10年間内服することがあり、処方を継続しながら通院経過観察を行います。)乳がんはセルフチェックで発見できるがんの1つです。ぜひ入浴や着替えの際に自分の乳房を見たり触ったりして確認してください。セルフチェックに加え、定期的な乳がん検診を受けて早期発見につなげましょう。
母乳のうっ滞や細菌性感染などで、乳房に炎症が起きている状態です。乳房表面の皮膚に発赤と熱感を伴い、乳腺内に膿瘍(うみの溜まり)を形成していることもあります。炎症が強い場合には、全身症状として、発熱、悪寒、関節痛、頭痛、腋のリンパ節の腫れなどがみられることもあります。まずは炎症をおさえる治療(消炎鎮痛剤の処方や抗生剤投与など)を行いますが、膿瘍形成が認められる場合には、切開排膿(皮膚を切開してうみを出す処置)を行う場合があります。細菌による感染性のこともありますが、無菌性のこともあります。
乳管や乳管の先の袋状の中に液体の分泌物がたまったもののことです。乳腺症の一種で、30代~閉経前の女性に多く見られ、閉経後は消失することもあれば、縮小するとともに濃縮のう胞となり小さな腫瘤として残ることもあります。女性ホルモンの影響が考えられており、1つだけのこともあれば、両側に複数認められることもあります。基本的には経過観察となりますが、分泌液がたまって緊満し痛みが出る場合などは、注射針を刺して中の液を抜くこともあります。
10代後半〜30歳代の若い女性がしこりを自覚して受診するものの多くがこの良性腫瘍です。触診では多くがころころと良く動く、つるんとした腫瘤です。線維腺腫は乳腺内の線維成分と乳管などの構造がともに増殖したもので、原因は女性ホルモンの影響と考えられています。両側乳房に多発することも珍しくないですが閉経後は徐々に縮小するため、基本的には画像所見で典型的な像が確認できれば経過観察します。中には、乳がんと紛らわしい形をしているものもあるため、組織生検を行って病理組織学的検査に提出することもあります。本来乳がんとはあまり関係のない腫瘍ですが、急速に大きくなるものもあり、摘出することもあります。
30〜40歳代の女性に多くみられる乳腺の良性の変化の総称です。本来は病理組織学的診断のもとにつける病名ですが、日常臨床では画像上のう胞や線維腺腫などを多数伴う密度の高い乳腺を総称しています。女性ホルモンの影響を受けやすく、痛みが張りの出やすい状態の方が多いです。
乳腺に発生する比較的まれな腫瘍です。40歳代に多く、急に大きくなったしこりを自覚して受診するケースが多いです。組織学的に良性・境界型・悪性に分類されており、殆どが良性です。画像検査では、線維腺腫とよく似ており見分けがつきにくいことがありますが、短期間で急速に大きくなる傾向にあります。葉状腫瘍と診断がついた場合、外科的に摘出することが推奨されます。良性であっても局所再発や転移を起こすことがあり、局所再発を繰り返すうちに悪性度が増すものもあるため慎重な経過観察が必要です。
当院では、組織診断による確定診断まで行うことが可能です。この過程で、病変の広がりを調べるためにMRI検査を行う場合には、連携先の病院で行った検査結果を併せてご説明させていただきます。
また確定診断がついたのちは、治療を行うためにご希望の高次医療機関にご紹介いたします。
ご紹介先での治療がひと段落されたあと、地域連携が可能であれば、当院で定期的な診察・マンモグラフィ・エコー検査、X線や骨密度測定、血液検査およびホルモン治療薬の処方を行います。この過程で異常や転移・再発の兆候が疑われた場合には、治療を受けられた病院へご報告するとともに受診をしていただきます。
地域医療連携とは、がん治療を行う拠点病院と地域のかかりつけ医とが、がん患者さまの治療を協力して行うことをいいます。拠点病院で手術や抗がん薬治療などの専門的な治療を行った後に、お薬の処方や日常的な検査は地域のかかりつけ医が担当し、節目の検査は拠点病院で行うという流れになります。
地域連携パスとは、これを行うための治療計画表で、拠点病院とかかりつけ医とで共有することによって、当該患者さまの処方の情報、検査内容やその結果を把握することができます。
これにより大きな病院での待ち時間が少なくなり、通院時間の短縮や通院費用の軽減なども期待でき、日常の体調管理などの相談もしていただきやすい環境をご提供できると考えています。